これは去年から今年にかけ、二人の妹の身の上に関する事件が代る代る起って来て、神経を休める暇もなかった妻を慰労するためでもあったが、それよりは、久振にほんとうに夫婦水入らずになって見たかったからであった。
で、土曜の晩は奈良ホテルに泊り、翌日春日神社から三月堂、大仏殿を経て西の京へ廻ったが、幸子は午頃から耳の附け根の裏側のところが紅く脹れて痒みを覚え、鬢の毛が触るとその痒さがひとしおであるのに悩んだ。
それは蕁麻疹のような痒さであったが、今朝から春日山の若葉の間をくぐり抜けたり、ライカを持ち歩いている貞之助のために五六回も木の下に立ってポーズしたりしたので、そんな時に蚋のようなものに螫されたのかも知れなかった。