彼女は大阪を立つ時に、夏は三等寝台に限る、暑苦しいカーテンのようなものがなく、風がすうすう吹き通すから二等よりは却って涼しい、と云う夫の意見に従って、三等寝台の下段に乗ったが、その日の昼に防空訓練があり、生れて始めてバケツのリレーに駆り出されたので、その疲れが残っていたせいか、とろとろしながら頻りに防空訓練の夢を見ては覚め見ては覚めした。
何でも蘆屋の家の台所らしいのであるが、実際のよりはずっとハイカラな亜米利加式の台所で、そこらじゅうがタイルや白ペンキでピカピカ光っている中に、研き立てた磁器やガラスの食器類が夥しく並んでいて、それらが、防空サイレンが鳴ると、突然パチャン、パチャン、と云う音を立ててひとりでに破裂するのである。
そしてキラキラした細かい破片があたり一面に散乱するので、雪子ちゃん、悦ちゃん、お春どん、危い危い、此方へ来なさいと云って、食堂へ逃げ込むと、又そこの食器棚の珈琲茶碗や、ビールのコップや、ワイングラスや、葡萄酒やウィスキーの罎がパチャン、パチャンと破裂する。