九時には浜屋へ着いたけれども、貞之助は早朝から用足しに出かけたと云うことなので、昨夜の寝不足を補うために床を敷かせて横になって見たが、矢張眼瞼の中に引っかかる物があって、瞬きすると眼球が痛く、その度毎に涙が出る。
眼を洗ったり点眼水を挿したりしても良くならないので、宿の番頭に近所の眼医者へ案内して貰い、眼の中の物を除いて貰ったが、医者は今日一日だけこれを外さないようにと云って、右の眼に眼帯をさせ、明日もう一度いらっしゃいと云うのであった。
貞之助は午に帰って来て妻が眼帯をしているのを見、それ、どないしたんや、と云うので、あなたのお蔭でえらい目エに遭いましてん、もう三等寝台は懲り懲りやわ、と云うと、どうも僕等の旧婚旅行は奈良以来ケチが附いたようや、と云って笑ったが、これから又出かけて来る、今日じゅうに用を片附けて、明日の朝早う立つようにしたいけど、いつ迄そんなもんしてるのや、と云う。