貞之助は午に帰って来て妻が眼帯をしているのを見、それ、どないしたんや、と云うので、あなたのお蔭でえらい目エに遭いましてん、もう三等寝台は懲り懲りやわ、と云うと、どうも僕等の旧婚旅行は奈良以来ケチが附いたようや、と云って笑ったが、これから又出かけて来る、今日じゅうに用を片附けて、明日の朝早う立つようにしたいけど、いつ迄そんなもんしてるのや、と云う。
眼帯は今日一日だけでええそうですけど、大事にせなんだら眼球に傷が行くよって、明日もう一遍見せに来なさい云われてますねん、朝早いのやったらどないしましょう、と云うと、眼エにゴミが這入ったぐらい何やねん、医者は銭取主義やよって大層そうに云うねん、そんなもん今日のうちに直ってしまうがな、と云って出かけた。
幸子は夫の留守の間にと思って、渋谷へ電話をかけて姉を呼び出し、実はこれこれで今朝此方へ出て来たけれども、今日一日の滞在ではあり、眼帯をしていて鬱陶しくもあるので、勝手ながらそちらから出て来て下されば、………と云うと、会いたいけれども私もちょっと手が放せない、と姉も云って、妙子のその後の様子などを聞くので、もう本当にもと通りになったこと、そう厳格に「勘当」して置くのもどうかと思うことがあったので、公然とではないけれども出入りだけは許していること、などを語り、委しいことは電話では云えないが、近いうちに又出て来るであろうから、………と、そう云って切った。