と、いつの間にか眼は殆ど直っていて、涙も何も出て来ないので、ほんに、云やはる通りやったわ、もうちゃんと良うなってるのんに、お医者さんはみんなあんなこと云うて、一日でも長う引っ張ろうとしますねんな、と、晩に幸子は夫に云った。
その翌日と翌々日の二日間、夫婦は河口湖畔のフジ・ヴィウ・ホテルに泊ったのであったが、このたびの旧婚旅行は奈良での失敗を償うて余りあるものであった。
二人は暑い東京から逃れて来て、爽やかな山麓の秋の空気を深々と吸い、ときどき湖のほとりの路を逍遥したり、二階の部屋のベッドの上に身を横たえつつ富士の姿を窓越しに眺めたりするだけで、既に十分満足であった。