幸子は着いた翌日の午後、昼の食事のあとで、暫くベッドへ仰向けに臥てじっと天井を視詰めていたが、そうしていても、一方の窓からは富士の頂が、他の一方の窓からは湖水を囲繞する山々の起伏が、彼女の視野に這入って来た。
彼女は何と云うこともなく、まだ行ったこともない瑞西あたりの湖畔の景色を空想したり、バイロン卿の「シロンの囚人」の詩を思い浮べたりした。
そして、何処か日本の国でない遠い所へ来たような気がしたが、それは眼に訴える山の形や水の色が変っているからと云うよりは、むしろ触覚に訴える空気の肌ざわりのせいであった。