と、雪子はなるべく妙子の方を見ないようにしているらしく、テーブルの上の、菊の花の挿さったガラスの一輪挿を両手で弄びながら続けたが、しかし少しも興奮している様子はなく、声の調子は平生の通りで、一輪挿を持っている細い指先も顫えを帯びてはいなかった。
「―――こいさん去年の冬ロン・シンで拵えた駱駝のオーバーコートな、あれは啓坊が拵えてくれはったんと違うか」
「あれはあの時云うたやないの、あの勘定が三百五十円懸ったのんを、薔薇の羽織と、立枠と花丸の衣裳を売って払うたんやわ」
と、雪子はなるべく妙子の方を見ないようにしているらしく、テーブルの上の、菊の花の挿さったガラスの一輪挿を両手で弄びながら続けたが、しかし少しも興奮している様子はなく、声の調子は平生の通りで、一輪挿を持っている細い指先も顫えを帯びてはいなかった。
「―――こいさん去年の冬ロン・シンで拵えた駱駝のオーバーコートな、あれは啓坊が拵えてくれはったんと違うか」
「あれはあの時云うたやないの、あの勘定が三百五十円懸ったのんを、薔薇の羽織と、立枠と花丸の衣裳を売って払うたんやわ」