と、井谷はそう云っているのであった。
幸子は、井谷自身は何と云おうとも、神戸では相当鳴らした美容院のことではあり、顔の売れている人のことでもあるから、誰かが発起人になって何かの催しをしないと云うことはあるまい、分けても自分たちは雪子のことでいろいろ世話になっているので、もし一般の送別会の催しがないようなら、自分たちだけでなりと一席設けなければなるまい、と、その晩貞之助とも話し合っていたのであったが、翌朝早くも活版刷りの通知状が届いたのを見ると、それにも送別会等の儀は堅く御辞退致します云々と記してあり、而も明日の夜行で立って東京へ行き、出帆迄は帝国ホテルに滞在の予定とあるので、もう何処へ招待する暇もないのであった。
それで、姉妹三人で何か進物でも持って今日明日のうちに挨拶に行くより仕方がない、と云うことになったが、その進物の選定がむずかしいので、ついその日は行きそびれてしまった翌日の朝、貞之助が出て行ったあとで、又何にしようかと雪子と二人で評定していると、そこへ井谷が訪ねて来た。