なあに、亜米利加は長いことではございませんから、直きに帰って参りますけれども、神戸はこれがお別れだと思うと、ほんとうにお名残惜しゅうございます、殊にお宅様は、奥様にしろ、雪子お嬢様にしろ、こいさんにしろ、こう申しては失礼でございますけれども、私の大好きな方々でしたのに、………と、井谷は例の早口で、短い時間に必要な事柄を洩れなく云ってしまおうとするところから、自分ひとりでまくしたてて、そう云っても蒔岡家の三人は、めいめい特色がおありになり、似ているようでそれぞれ個性がはっきりしておられ、揃いも揃って良い姉妹であられること、正直のところ、神戸の土地にはそれ程の未練はないのであるが、末長くお附合いさせて戴こうと思っていた蒔岡さんの方々と、今迄のように親しく願うことが出来なくなるのが、何にも優して遺憾であること、今日お二人にお目に懸れたのは嬉しいが、こいさんにお会い出来ないのが心残りであること、などを云った。
こいさんならもうすぐ参る筈ですが、只今電話を懸けて見ましょう、と、そう云って幸子が立ちかけると、いいえいいえと云いながら腰を浮かして、残念でございますけれども、何卒こいさんには宜しく仰っしゃって下さいまし、と云ってから、あの、もう神戸ではお目に懸れませんけれども、出帆迄にはまだ十日程ございますので、もし御都合がおつきになりましたら、お三人で東京まで入らしって下さいませんでしょうか、と云い出すのであった。
そして、いいえ、何もお見送り戴かなくっても宜しいのでございますけれども、実は東京で皆さんに御紹介申上げたい方があるのでございます、………と云う話なのであった。