そして、いいえ、何もお見送り戴かなくっても宜しいのでございますけれども、実は東京で皆さんに御紹介申上げたい方があるのでございます、………と云う話なのであった。
井谷は、そこでちょっと言葉に句切りを附けてから、下のようなことを語った。
―――ここに、御当人の御嬢様が聞いておいでになる前で、斯様な慌しい際に斯様な話を持ち出すのも如何であるけれども、自分が神戸を去るに方って一番心懸りなのは、何とかして自分の力でと思っていた雪子お嬢さんの御縁を、遂に纏めて上げることが出来ず、このままお別れするような羽目になったことである。