―――ここに、御当人の御嬢様が聞いておいでになる前で、斯様な慌しい際に斯様な話を持ち出すのも如何であるけれども、自分が神戸を去るに方って一番心懸りなのは、何とかして自分の力でと思っていた雪子お嬢さんの御縁を、遂に纏めて上げることが出来ず、このままお別れするような羽目になったことである。
ほんとうに、自分はお世辞でも何でもなく、こんな結構な御姉妹を持った良いお嬢さんはいらっしゃらないと思うにつけても、何か自分に課せられた責任を果たさずに行くような気がしてならず、この際になっても出来るものならお嬢さんの縁談に目鼻をつけ、心懸りの種を除いて行きたい念願が切なのであるが、それについて一つあなた方に提議したいことがある。
と云うのは、あなた方も名前は御存知であろうが、維新の際に功労のあった公卿華族で御牧と云う子爵がある。