そして今から八九年前に帰朝してからも、これと云った定職はなくぶらぶら遊んでいたのであるが、数年前から折々道楽半分に、友人が家を建てる時にその設計をしてやっていたところ、それが案外評判がよく、追い追いその方面の才能を認める人が出て来るようになった。
それで当人も気をよくして、最近では西銀座の或るビルの一角に事務所を設け、本職の建築屋さんになりかけていたのであったが、何分御牧氏の設計は西洋近代趣味の横溢したものであるだけに、贅沢で金のかかるものなので、事変の影響下にだんだん注文が少くなり、仕事が全く閑散になってしまったために、僅か二年足らずで折角の事務所を閉鎖するの已むなきに至り、現在では又遊んでいると云うのが事実である。
ま、ざっとそう云う経歴の人であるが、この人が近頃細君を捜している、と云うよりは、彼の周囲の人々が彼のために心配して、是非御牧氏に細君を持たせたいと云っているのである。