自分が聞いたところでは、氏は本年四十五歳だそうであるが、外国生活が長かったのと、帰朝後も独身生活の気やすさに馴れて家庭を作ろうとしなかったので、今日まで奥さん乃至奥さんらしいものを持ったことがない。
勿論西洋ではどんなことがあったかも知れないし、帰朝してからも大分新橋赤坂あたりで遊んでおり、放蕩の味は知っているらしいのであるが、それも去年ぐらい迄で、今日ではもうそんなことをする経済的能力がなくなったらしい。
それと云うのが、氏には若い時代に父子爵から分けて貰った財産があったので、その金で半生の放浪生活を続けて来たのであるが、浪費するばかりで殖やすことを知らない人なので、最早や大部分を遣い果たして、剰すところ幾何もない有様なのである。