いったい井谷はそう東京には用がないのだけれども、娘が特別国嶋氏に眼をかけて貰っているために、去年以来三度ばかり上京して国嶋邸へ挨拶に行ったが、そのうち二度は御牧氏に行き遇った。
娘光代の話では、国嶋氏夫婦は勝負事が好きで、しばしば徹夜で、花合せ、ブリッジ、麻雀等をすることがあり、そのお相手を仰せ付かるのが、御牧氏と光代なのだと云う。
井谷は、親の口から申しますのも可笑しゅうございますがと、言訳しながら語るのであるが、彼女の娘はなかなかスマートな性質であって、年に似合わず博奕の才があり、おまけに、勝気で辛抱強くて、一晩や二晩徹夜をしても昼間は平気で社へ出勤し、人一倍活躍すると云う風なので、そんなところが社長夫婦に気に入られる原因になったのであるらしい。