彼女は殊に去年以来、蒔岡の家を勘当された形になってから、何となく世間が狭くなったように思え、心なしか今迄懇意にしていた人々が急に自分を妙な眼で見始めたような気がしてならなかったのに、井谷は終始一貫して、いつも変らぬ親身な態度で遇してくれた。
そのくせ彼女の不品行の数々は、そう云う噂の伝播し易い美容院の主人である井谷の耳には、最も早く這入っていた筈であり、裏の裏まで知り抜いていたに違いないのに、井谷は妙子のそう云う暗い方面は見ようとせず、良い面ばかりを認めてくれているらしかった。
妙子は平素からそれが嬉しかったところへ持って来て、その井谷が今朝わざわざ暇乞いに来、特に「こいさんに会いたい」と云い、是非東京へも一緒に来るようにとまで云ってくれたと聞いては、ひとしお感激の念を禁じ得ないものがあった。