いずれ間もなく井谷が現れそうなので、まさか今から寝直す訳にも行かないけれども、帯でも解いて暫くくつろいでいる方がよくはないか。
―――彼女は、自分はどうでも、雪子のことが案じられた。
と云うのは、ずっとあれから続けている注射が利いて来たのでもあろうか、このところ好い塩梅に眼の縁の翳りが、完全に消えたとは云えないけれども大分薄くなっているのであるが、多分もう月の病が近づいている頃でもあるし、汽車旅行の窶れで冴えない顔色をしているのを見ると、こう云う時によくあのシミが濃くなることを思い合せて、何よりこの場合雪子を疲れさせないことが第一であると考えられた。