それと云うのは、ここのホテルの地階にも美容室はあるけれども、資生堂ではパアマネントを懸けるのに、ゾートスと云う薬液を使う新しい遣り方をしている、それだと電気器具などを頭へ取り附ける面倒がなくて楽であるから、彼処でやってお貰いなさいと、昨夜光代に教えられたからであったが、行って見ると、十二三人もの先客が控えており、これでは何時間待たされるかも分らない形勢であった。
神戸の井谷の店であると、こう云う場合に顔を利かして我が儘を云い、順番を胡麻化して貰う手があったが、ここではそう云う手を使う余地がなく、待合室に待っている間も、周囲がいずれも見も知らぬ純東京の奥様や令嬢ばかりで、誰一人話しかけてくれる者もいない。
二人は小声で語り合うのさえ、上方訛を聞かれることが気が引けるので、さながら敵地にいる心地で身をすくめながら、あたりでぺちゃくちゃ取り交される東京弁の会話に、こっそり耳を傾けているより外はなかったが、今日は大変込むんだわね、と、一人が云うと、そりゃそうよ、今日は大安だもんだから御婚礼がとても多いのよ、美容院は何処も大繁昌よと、一人が云っている。