幸子は、成る程そうだったのか、それでは井谷が送別会を今日にしたのも、雪子のために縁起を祝ってくれたのかも知れない、と心付いたが、そう云ううちにも客が後から後からと詰めかけて来、済まないけれどあたし時間の約束があるんで、………と、例の手を使って二人も三人も先に這入って行くのであった。
幸子たちは十二時前に此処へ来たのに、やがて二時になってしまい、五時と云う今夜の会に間に合うかどうか心もとなく、二度と再び資生堂なんかへ来るものではないと、腹立たしさを怺えながら苛々していたが、出がけにトーストを食べただけなのが今になると答えて、たまらなく腹が減って来た。
分けても雪子は、平素から「あたしは普通の人よりも胃袋が小さい」と云っており、一遍に取る食物の量が僅少なのであるが、そのために又普通の人より早く腹を空かせる癖があって、ややともすれば脳貧血を起しそうになるので、その癖を知っている幸子は、これでパアマネントを懸けても大丈夫であろうかと、自分よりも雪子の方が心配になり、黙って寒そうな様子をしている彼女の顔を覗き込んでばかりいた。