幸子は、そう云えばそうであろうけれども、妙子だけ顔を見せないのも角が立つし、義兄は兎に角、姉は勘当と云うようなことにこだわる筈はなく、会いに行けばなつかしがるに極まっている、殊に妙子がああ云う大病をした後であるから、そう云っても顔を見たがるであろうことは知れているので、そない云わんと一緒に来なさい、とすすめて見たが、行くのは大儀であるから止める、自分は何処かで珈琲でも飲んで、先に歌舞伎座へ行っている、と云うので、それならと、幸子も強いては誘わず、雪子と二人だけで出かけた。
待つのは堪忍して貰いたいと運転手が云うのを、そう云わないで待っていてほしい、ほんの十五分か二十分の間である、待ち賃はよいだけ払うからと、拝むようにして頼み込んで車を格子先に停めて置き、二人は二階の八畳の間に上って、あの朱塗の八足台の卓や、頼春水の額や、蒔絵の棚や、その棚の上の置時計等が、相も変らず飾ってあるのを眺めながら姉と対坐したことであったが、今年六つになる梅子を除いて、上の子供たちは皆学校へ行く年頃になっているので、家の中は昔のように騒がしくはなかった。
「まあ、それにしたかて、一遍自動車帰って貰うたらどうやねん」