それに近頃は、本家が虎の子のようにしていた動産の大部分が、株の値下りで殆ど無価値に等しくなったと云うことなので、家計はますます苦しくなっているに違いなく、たまにこう云う折ででもなければ、芝居見物に行くことなどもないのではあるまいか。
そう思うと幸子は、姉の心を外らすために、せいぜい雪子の縁談のことを誇張して話して、先方はもうその気であるから、此方さえ承諾すれば纏まるに極まっているので、今度は多分兄さんや姉ちゃんに喜んで貰えるであろう、いずれ貞之助に会って見て貰った上で、改めて相談に出るつもりであるから、と云ったりしてから、
「今日の歌舞伎座もその御牧さんや井谷さんの母子が一緒やねん」