幸子が憤慨に堪えないのは、こう云う風に幸子の立腹することも、貞之助の機嫌を再び損ずるようになることも、雪子が殆ど測り知れない災難を蒙むることも、何も彼も計算に入れて見た上で、それでも結局非常手段を取る方が自分のために得策であると考えた、いつもの妙子の冷静な判断と心臓の強さであった。
が、それも手段そのものは、背に腹は換えられなかったのであろうし、妙子流の人生観では已むを得なかったのでもあろうが、選りに選ってこう云う時に、―――雪子の運命を決する大切な時に、―――そんな事件を起してくれなくてもよかったではないか。
尤も妙子の妊娠が雪子の見合いと時を同じゅうするようになったのは偶然の結果で、故意にたくらんだ訳ではないに極まっているが、雪姉ちゃんが結婚する迄は自分の方も差控えるとか、雪姉ちゃんに飛ばっちりが行かないように気を付けるとか、そんなことを云っていたのが本心であるなら、せめて雪子の身が固まるのを待ってから、どう云う手段でも取るべきではなかったか。