幸子の恐れるのは、もし奥畑が彼自身の名誉を捨ててかかる気になれば、この際どんなことでも出来る、たとえば刃傷沙汰のような事件を起して、自分から新聞種を提供し、蒔岡家にケチを附けるようなことも、しようと思えば出来なくはない、と云うことにあったが、貞之助はそれを一笑に附して、そんなことはお前の杞憂に過ぎない、いくら奥畑が不良青年的傾向があると云っても、そこはお上品な坊々育ちであるから、まさか無頼漢じみた真似なんか出来ないであろうし、したいと思っても刃物など振り廻す勇気はあるまい。
それに、もともと彼と妙子との関係は、孰方の家でも嘗て一度も認めたことはなかったのではないか。
そうして見れば彼はそれについて何を主張する権利もないのである。