幸子はこれを読んで行くうちに、先日道玄坂の家の門前で、自動車の窓を隔てて別れの挨拶を交した姉の、涙をぽろぽろ零していた顔を思い浮かべた。
姉は何となく書きたくなったので書いたと云っているけれども、―――そしていろいろの物の無心をする用もあったのであろうけれども、―――矢張あの時芝居に誘って貰えなかったことが忘れられないで、その恨みを婉曲に述べているのかも知れなかった。
今迄姉の手紙と云うと、此方を妹扱いにして意見するような書き方をしたのが多く、幸子はいつも、訪ねて行けば優しい姉に、文の面では叱られてばかりいたような気がするのであるが、そう云う姉がこんなことを云って来たのは、ちょっと不思議であったので、取り敢えず注文の品々を小包便で送り出したきり、直ぐには返事をしたためようともせずにいた。