御牧は光代から予告があった通り、その月の二十日近くに、或る夜嵯峨の子爵邸から電話で、昨日東京から此方へ着き、二三日滞在しているつもりであるが、一遍御主人御在宅の折に参上したいと云って来たので、夕刻からなら、いつでも御都合のよろしい日にと云うと、それでは明日伺いますと云って、その日の四時頃に見えた。
早めに帰宅していた貞之助は、応接間で三四十分余人を交えずに会談してから、幸子と雪子と悦子を加えて神戸に出、オリエンタルホテルのグリルで食事をして、新京阪で嵯峨へ帰る御牧を阪急まで送って行って別れた。
御牧の態度は東京の時と少しも変らず、初対面の貞之助の前でも、磊落で、話上手で、肌触りのよいところを発揮したが、酒はこの前よりも多量に飲み、食後も盛んにウィスキーのグラスを傾けつつ諧謔を弄して倦むことを知らないので、誰よりも先ず悦子が喜んでしまい、帰りに街を歩いた時は、親しい叔父にでも甘えるように御牧に手を曳かれて行くと云う有様で、姉ちゃん御牧さんをお婿さんにしやはったらええと、幸子に耳こすりしたくらいであった。