で、そう云うことなら万事あなたを御信頼申上げて、貰って戴きますけれども、順序として本家の承諾を求め、又当人にも、これは異存のないことは分っておりますが、なおよく確かめて見ますまで、暫時御猶予を願います、この御返事は、一旦蘆屋へ帰りまして、正月早々書面を以て申上げることにしますが、しかしこれは形式的のことで、大体今日を以て纏まったものとお考え下すって結構です、と云うと、それでは御返事があり次第子爵の方へ取次ぎますから、と云うようなことだったので、貞之助は暇を告げるとその足で道玄坂へ廻って、鶴子に委しい報告をし、義兄の意見を至急に知らしてくれるように頼んで来たのであった。
と、年が改まって正月の三日に、光代が又蘆屋へ使いに来た。
彼女は三箇日の休みに阪急岡本の叔父の所へ遊びに来たのであるが、そのついでに社長から伝言を托された、社長は大阪に用があって昨二日に下阪した筈であるが、今日の午後には京都へ来、ミヤコホテルに泊ることになっている、それで、過日の御返事をこの機会に聞かして戴ければ、滞在中に御牧子爵を訪うて話をし、その上で一遍皆さんに嵯峨の子爵邸までお越しを願うようなことにしたいと思うが、如何であろうか、予めその辺の御都合を伺って来るようにと云うことで、その御返事を出来れば明四日じゅうに聞かして戴いて、ミヤコホテルへ連絡するように命ぜられているのである、どうも大変お急き立てするようで恐縮であるが、社長が云うには、御本家や御本人の御承諾を求めると云っても、それは形式的のことに過ぎないようであるから、多分私が伺いさえすれば今日にも聞かして戴けるであろう、と云うことだったので参上した、と云うのであった。