老人は、私は御免を蒙むってと、鼠の絹の襟巻をし、電気ストーブを背中に当てたり、電気布団を敷いたりして、風邪を引かぬ用心をしながら、物静かに、ぽつぽつ口を利くのであったが、七十を越えた高齢の割にはしっかりしていて、国嶋に対し、貞之助たちに対し、可なり勤めているところが見えた。
初めのうちはこの老人に遠慮する気味合いであった一座の空気も、酒が廻るに従って解れて来、父の隣に席を占めた御牧が、如何でございますか皆さん、この親子はちっとも似ていないと云う評判があるんですが、………と、冗談交りに親父の顔と自分の顔の棚おろしを始めた頃から、彼方此方に笑声が起った。
貞之助は立って老人の前に行って献酬をし、それから国嶋の前に行って、御高話拝聴と云う恰好で長いこと坐っていた。