貞之助はそれでほっとしたものの、一方に妙子のこともあるし、奥畑が又、ああは云っていても形勢次第で何を云い出すかも知れないような気がするので、邪魔が這入らないうちに急速に此方を成立させてしまいたく、結納だけでも早く済ませたいのであったが、その後光代からの情報に依ると、生憎な時に国嶋夫人が悪性感冒から肺炎になり、相当重態の模様であるから、ここ暫く延期して戴くより仕方がないと云うことで、国嶋からも書面で鄭重にその事情を述べて来た。
但し、甲子園の家は既に子爵家が買い取って御牧へ譲渡し、登記の手続も完了した。
借家人はまだ立ち退かないが、遠からず退くと云っているから、空き次第御牧が一遍西下してその家を検分し、そちらの姉上にも、雪子さんにも見て戴くつもりである、そして結婚が済む迄は留守番を置くことになるが、それには聴雨庵から女中を一人貸してくれる筈で、その女中は結婚後もずっと使ってよいことになろう、と、これは御牧が自身で知らせて来た。