それは物凄く汚いどろどろのかたまりのようなもので、三好が看護婦から聞いたのでは、胎児の毒素が口の方へ出るのだと云うことであったが、幸子が見ると、赤ん坊が分娩後に始めて排泄するあの蟹屎と云うものに似ていた。
幸子は時を移さず院長室へ駈け込んで貞之助の名刺を示し、持って来た注射液を全部差出して、先生、あたしはやっとこれだけの薬を都合して来たのですが、どうしても独逸の陣痛促進剤が手に入りません、………どんなに値段が高うても構いませんから神戸じゅうを捜して下さい、………何処かに誰か持っている人は、………と、わざと甲高い声を出して半狂乱のように云い、人の好い院長を泣き落すことに成功したが、実は此処の病院にもたった一つ取って置きのがあるだけです、ほんとうにこれ一つしかないのです、と、院長はそう云って、やっと渋々出して来た。
而も、何と驚いたことには、その薬を注射して五分の後に、忽ち陣痛が起り始め、独逸の製品が国産品に比べていかに優秀であるかと云うことを、幸子たちは眼前に見せられたのであった。