その話に依ると、奥畑は始終宗右衛門町辺に出没するばかりでなく、どうやら馴染の女などがあるらしいと云うのであった。
で、啓坊がああ云う風になっていることを、こいさんは知っているのだろうか、もしこいさんが今もなお、雪子ちゃんが何処かへ縁づくのを待って啓坊と結婚するつもりでい、啓坊もそんな約束をしているのであるなら、お前からこいさんに注意した方がよくはあるまいか、啓坊のああ云う行いが、こいさんとの結婚が容易に許して貰えないで待ちくたびれた結果の焼けであるとすれば、酌量の余地がないでもないが、それでは「真面目な恋愛」だと称している看板に偽りがあることにもなり、第一今日の非常時に不謹慎であると云うべきで、今迄は蔭の同情者であった自分達としても、あれを改めてくれない限り、将来二人を一緒にすることに骨を折ると云う訳には行かない、―――と、貞之助はそう云って、内々気を揉んでいる様子だったので、幸子はそれとなく妙子に聞いてみたことがあった。
妙子はしかし、啓ちゃんの一家は先代のお父さんの時から花柳界に親しむ傾向があり、啓ちゃんの兄さんや伯父さんなどもお茶屋遊びが好きなので、啓ちゃん一人がそうと云う訳ではない、それに啓ちゃんの場合は、貞之助兄さんのお察しの通り私との結婚問題がすらすら運ばないところから、つい其方へ足が向くようにもなるので、そのくらいなことは啓ちゃんの若さでは已むを得ないと、私は思っていた、馴染の芸者があるなどと云うことは初耳だけれども、恐らく噂にとどまることで、はっきりした証拠でもあるなら格別、私にはそれは信じられない、但しこの事変下に不謹慎であると云う批難は免れないし、誤解を招くもとでもあるから、これからは是非お茶屋遊びを止めるように忠告しよう、私の云うことなら何でも聴く人だから、止めてほしいと云えば止めるに違いない、と云うようなことで、別にそのために奥畑を悪く思う風でもなく、そんなことぐらい前から分っていたことだ、驚くには当らないと云ったように落ち着き払っていたので、幸子の方が顔負けをした程であった。