人形の製作に飽きた訳と云うのは、自分ももう大人になったのであるから、いつ迄も少女のするようなたわいのない仕事をするよりは、何かもっと社会的に有意義なことをやりたい、そしてそれには、自分の天分なり、嗜好なり、技術修得の便宜なりから、洋裁が一番よいと考えるに至った。
なぜなら、洋裁には早くから趣味を持っていて、ミシンを使うことも上手であるし、ジャルダン・デ・モードやヴォーグなどと云う外国の雑誌を参考にして、自分の服は勿論のこと、幸子や悦子の物などをも縫っていたくらいで、習うと云っても、全然初歩から始めるのではないから、上達も早く、且これならば将来一人前の腕になれるという自信が持てるからであった。
彼女は人形の製作が芸術で洋裁が品の悪い職業だと云う奥畑の意見を一笑に附して、自分は芸術家などと云う虚名は欲しくない、洋裁が品が悪いなら悪くても構わぬ、いったい啓ちゃんがそんなことを云うのは時局への認識が足りないからで、今は子供欺しの人形などを拵えて喜んでいられる時代ではあるまい、女性と雖もっと実生活につながりのある仕事をしなければ耻かしい時ではないか、と云うのであったが、幸子は、そう云う風に云われてみると如何にも尤もで、一言も反対する余地はないように感じた。