ファインダアを覗いていた板倉は、幸子の瞳が急に微かに潤んだような気がしたので、はっとして顔を上げた。
貞之助も同時にそれに心づいたが、でも、何のために妻の表情が俄にそんな風になったのか、―――あの三月の失敗以来と云うもの、折に触れては胎児のことを思い出して涙ぐむのが癖になっていて、時々それで驚かされることはあるにしてからが、今のはそれではないようであるし、ちょっと見当が付きかねる、―――こうして椅子に掛けている妙子の今日の装いを見るにつけても、本家の姉がこの衣裳を着て式を挙げた遠い昔の日のことを想い起して感慨無量になったとでも云うのか、そうでなかったら、こう云う浮いたことではなしに、妙子が晴れの装いを凝らして嫁ぐようになるのはいつの日であろうかと思い、まだその前に雪子と云うものがあることなどにも思い及んで、悲しくなったとでも云うのであろうか、恐らくそれらの総べてのことが妻の心頭に湧いたのかも知れないと、貞之助は察した。
それにしても、今日の妙子のこの姿を見たがっている者が、雪子の外にもう一人いる筈だと思うと、流石に貞之助はその男の心中を可哀そうにも感じたが、そう云えば板倉が写真を撮りに来ているのは、事に依ると啓坊の云い付けなのではあるまいかと、ふっとそんな風に気が廻った。