(その、離れから母屋へ渡る五歩か六歩の間にもびしょ濡れになった)そして、今のサイレンは何ですやろうと幸子が云うのを、さあ、何か分らないが大したことではないやろうと云いながら、兎も角もその辺まで出て見るつもりで、薩摩絣の単衣の上に洋服のレインコートを纏って玄関の方へ行こうとすると、えらいことでございますと、お春が顔の色を変えて、腰から下を泥まみれにして裏口から駈け込んで来た。
彼女はさっき増水の様子を見てから、何となく小学校の方面が気になっていたところへサイレンが鳴ったので、途端に外へ飛び出して行ったのであると云う。
と、水は直ぐこの家の一つ東の辻まで来ていて、山手から海の方へ、―――北から南へ、滔々たる勢で流れている。