彼女は試みにその水の中を東へ向って進みかけたが、最初は脛を没する程度であったのが、二三歩行くと膝まで漬かってしまい、危く足を浚われそうになったと思ったら、人家の屋根の上から、こらッ、と怒鳴る者があった。
こらッ、この水の中を何処へ行く、女の癖に無茶なことすなと、えらい剣幕で怒鳴られたので、誰かと思って見たら、自警団員らしい服装はしているけれども顔見知りの八百常の若主人であった。
何やねん、あんた八百常さんかいなと云うと、向うも気が付いて、お春どん、あんた何処へ行かはるねん、この水の中を気でも違うたんか、これから先は男でも行かれへん、川の近くは家が潰れたり人が死んだりしてえらいこっちゃがなと云う。