だんだん聞いてみると、蘆屋川や高座川の上流の方で山崩れがあったらしく、阪急線路の北側の橋のところに押し流されて来た家や、土砂や、岩石や、樹木が、後から後からと山のように積み重なってしまったので、流れが其処で堰き止められて、川の両岸に氾濫したために、堤防の下の道路は濁流が渦を巻いていて、場所に依っては一丈ぐらいの深さに達し、二階から救いを求めている家も沢山あると云う。
お春は何よりも小学校が心配なので、あの辺はどうであろうかと云うと、さあ、あの方面の様子はよく分らないが、いったいに国道から上の方がひどくやられているらしいから、川下の方はそんなでもないかも知れない、それに被害は東岸の方が甚だしいので、西岸は東岸程ではないと云う噂だが、あの小学校の辺は如何であろうかと云う。
そんな話では心もとないから何とか廻り道をしてでも学校まで行ってみたいのだがと云うと、いや、何処をどう廻っても水に漬からずには行く道がない、而も東へ行けば行くほど水が深くなる、深いだけならよいが、流れが早いので足を浚われる危険があり、上から大きな材木だの石だのが押し流されて来るから、そんな物に打つかったらそれきりで、悪くすれば海まで流されて行ってしまう、自警団員なら綱にでも掴まって必死の覚悟で渡って行くけれども、とても女などがそんな恰好で行けるものではないと云われて、仕方なしに一と先ず帰って参りましたと、そうお春は云うのであった。