お春は何よりも小学校が心配なので、あの辺はどうであろうかと云うと、さあ、あの方面の様子はよく分らないが、いったいに国道から上の方がひどくやられているらしいから、川下の方はそんなでもないかも知れない、それに被害は東岸の方が甚だしいので、西岸は東岸程ではないと云う噂だが、あの小学校の辺は如何であろうかと云う。
そんな話では心もとないから何とか廻り道をしてでも学校まで行ってみたいのだがと云うと、いや、何処をどう廻っても水に漬からずには行く道がない、而も東へ行けば行くほど水が深くなる、深いだけならよいが、流れが早いので足を浚われる危険があり、上から大きな材木だの石だのが押し流されて来るから、そんな物に打つかったらそれきりで、悪くすれば海まで流されて行ってしまう、自警団員なら綱にでも掴まって必死の覚悟で渡って行くけれども、とても女などがそんな恰好で行けるものではないと云われて、仕方なしに一と先ず帰って参りましたと、そうお春は云うのであった。
貞之助は直ぐに小学校へ電話を懸けてみたけれども、既に不通になっていた。