幸子は夫が出て行ったあと、自分も何かじっとしてはいられなくなって、いくらか雨が小降りになったのを幸いに門の前まで出て見ると、そこへ蘆屋川駅前のガレージの運転手が通りかかって挨拶をしたので、小学校の様子を先ず尋ねた。
すると、自分は行って見ないけれども、あの小学校は恐らく一番安全であったらしい、彼処へ行く迄の間には水の出た区域があるけれども、あの小学校の所は位置が高いので浸水していないと云う話であるから、多分大丈夫でしょうと云う答であった。
幸子はそう聞いて少しほっとしたが、運転手はそれに附け加えて、蘆屋川もひどいけれども、住吉川の氾濫の方が遥かにひどいと云う噂が専らである、電車は阪急も省線も国道も皆不通なので、はっきりしたことは分らないが、西の方から歩いて来る人達に聞いてみると、此処から省線の本山駅あたりまでは、出水もそれ程ではなく、線路の上を伝わって行けば水に漬からずに行けるけれども、あれから先は、西へ行くほど一面に茫々たる濁流の海で、山の方から大きな波が逆捲きつつ折り重なって寄せて来て、いろいろな物を下流へ押し流している、人が畳の上に乗ったり木の枝に掴まったりして助けを呼びながら流れて行くけれども、どうすることも出来ない有様だと云うことです、と云う話に、今度は寧ろ妙子の安否が気遣われて来た。