鉄道線路に沿うて行くとして、野寄までは一里強ぐらいなものであろうか。
散歩好きな貞之助はあの辺の地理をよく知っており、洋裁学院の建物の前も度々通っているのであるが、彼に一つ希望を抱かせたことと云うのは、その建物は、省線の線路が本山駅を出て西へ十数丁行ったあたりの直ぐ南側に、一本の道路を隔てて甲南女学校がある、その女学校から少し西へ寄った所、線路から云えば南へ直径一丁ほどの地点にあるので、もし線路上をその女学校の附近まで伝わって行けるものとすれば、或は洋裁学院へも到達し得るかも知れず、し得ない迄も、その建物の被害程度を探ることぐらいは出来そうに思えたのであった。
貞之助が門を出ると、お春が又無謀にも追いかけて来たが、いや、今度こそお前は来てはならぬ、それより幸子と悦子だけでは家の方が心許ないから、しっかり留守番をするように頼むと、きびしく云い付けて追い返して、家から半丁ほど北のところで線路へ上った。