そして普通の洪水と違うのは、六甲の山奥から溢れ出した山津浪なので、真っ白な波頭を立てた怒濤が飛沫を上げながら後から後からと押し寄せて来つつあって、恰も全体が沸々と煮えくり返る湯のように見える。
たしかにこの波の立ったところは川でなくて海、―――どす黒く濁った、土用波が寄せる時の泥海である。
貞之助の立っている鉄道の線路は、その泥海の中へ埠頭の如く伸びていて、もう直き沈没しそうに水面とすれすれになっているところもあり、地盤の土が洗い去られて、枕木とレールだけが梯子のように浮かび上っているところもある。