お春は矢張幸子と同じ思いであったので、会う人毎に野寄方面の被害状況を聞いてみたのであるが、誰の云うところも、住吉川の東岸ではあの辺が一番ひどくやられているらしいと云うことに一致してい、他の方面は既に著しく減水し始めたけれども、あの方面だけは未だに減水の兆候がなく、所に依っては丈余の深さに達している、と云うのであった。
幸子は夫が無謀な行動をするような性質でないことを信じてもいたし、出かける時に冒険はしないと云っていた言葉もあるしするので、夫については格別心配もしていなかったのであるが、時刻が移るにつれて、妙子ばかりでなく夫のことも気遣われて来た。
野寄がそんなにひどいとすれば行ける訳はないのであるから、途中で引き返して来そうなものだのに、未だに帰って来ないのはどうしたのであろう。