………わたしの旦那さん、ペータア、ローゼマリー、皆どうしましたか、………何処にいますか、………わたし、大変々々心配。
この夫人の夫、シュトルツ氏と云う人は、体格の立派な、見るから頼もしそうな偉丈夫であり、理智の発達した独逸人のことでもあるから、多少の水に出遭ったぐらいでめったなことがあるであろうとは、幸子には考えられないし、ペータアやローゼマリーにしても、彼等の通っている学校と云うのは神戸でも高台の方にあるのだから、恐らく災害を受けていないに違いなく、ただ水のために帰路を塞がれているだけのように思えるのであったが、夫人の身になると矢張いろいろな場合が想像されるらしく、幸子がいくら安心するように云ってみても、いいえ、わたし聞きました、神戸の水大変です、沢山々々人死にました、と、なかなか気休めの言葉などは耳にも入れない。
その涙ぐんだ顔を見ると、幸子も他人事とは思えないながら、しまいには何と云ってよいか分らなくなって、きっと大丈夫です、………心から皆さんの御無事を祈っています、………と、気の利かない極まり文句を繰り返すより外はなかった。