奥畑が行ってしまったあと、幸子は暫く門柱に靠れて夕闇の中を視詰めながら彳んでいたが、矢張夫たちの帰って来そうなけはいがないので、応接間に戻って、苛々する気分を落ち着けるように、蝋燭に灯をつけて、椅子にかけてみた。
お春が這入って来て、御飯の支度が出来ておりますがと、顔色を見い見い恐る恐る尋ねたので、晩飯の時刻が疾うに過ぎていることに心付いたが、とても食卓に向う気はなく、あたしはよいから、悦子だけ先に食べさせて上げてと、云ったけれども、二階へ聞きに行ったお春は直ぐ降りて来て、お嬢ちゃんも後になさるそうでございますと云う。
いつも独りで二階にいることを淋しがる悦子が、もう勉強も済んだ時分だのに珍しく部屋に引き籠ったきり大人しくしているのが不思議であるが、こう云う時にうるさく母に附き纏うと剣突を食うことがあるのを承知して、近寄らないようにしているのであろう。