まあ、大変だわ、レコードを濡らさないようにしてよ、と女史が云うので、大急ぎでキャビネットからレコードを出して、何処か高い所へ置くと云っても棚も何もないので、もう水に漬かっているピアノの上へ積み上げたりしていたが、そうこうするうちにお腹ぐらいの深さになって、三つ組のテーブルだの、珈琲沸かしのグラスの球だの、砂糖壺だの、カーネーションの花だの、いろいろなものが室内の彼方此方にぽかりぽかり浮き始めた。
女史が、あら、妙子さん、その人形大丈夫か知らと、煖炉棚の上に載っている、妙子の作った仏蘭西人形を気にしたので、大丈夫でっしゃろ、まさかそんなに来えしませんやろ、などと云っていたが、実際まだその時分には三人ながらいくらか面白半分にきゃッきゃッと云っていた。
弘少年が学校の鞄が流れて行くのを掴まえようとして体を伸ばした弾みに、浮いて来たラジオの角へ頭をコツンと打つけて「あ痛ア」と云った時なんか、女史も、妙子も、頭を押さえている当人も、可笑しくて笑いこけたりした。