彼女は、自分が取り縋っている窓のガラス戸の上方が、さっきも云うように一二寸程開いていて、そこから外の濁流が浸入して来るので、片手でカーテンを掴みながら、片手で一生懸命にそのガラス戸を締めようとしていると、ちょうどその時に、―――いや、実はその少し前から、自分のいる部屋の頭の上、―――屋根をみしりみしり人が歩くような足音がしていたが、その時ひらりと屋根の方から藤棚の上へ飛び移った人影があった。
おや、と思うと、人影は藤棚の一番東側、つまり妙子が覗いている窓に一番近い方の端へやって来て、棚の縁に掴まりながら濁流の中へ降りるのであった。
勿論全身が水に漬かって、今にも流されそうになるので、手は片時も棚を掴まえて放さずにいるのであったが、そうしながら窓の方へ体を捻じ向けて、妙子と顔を見合わした。