ただ貞之助の場合にはその海を東の岸から展望したのであるが、妙子はその海の殆ど真ん中に立って、四方を取り巻く怒濤を見渡した訳であった。
彼女は今しがた助かったと思ったばかりであるが、荒れ狂う自然の猛威を見ては、助かったのは一時のことで、結局助からないのではないか、自分も板倉も、どうしたらこの水の包囲から脱け出ることが出来るであろうか、と云う気がした。
が、さしあたり女史と弘少年のことが案じられるので、まだ先生と弘さんがいたはるねん、どないぞしたげて、―――と、しきりに急き立てている時に、どーん、と、藤棚を揺す振ったものがあった。