何にしても藤棚の上で妙子が聞いたのは、水に追われて彼方へ逃げ此方へ逃げしているうちに、偶〻こいさんが洋裁学院に来たはることを思い出したので、これは万難を排しても救助に行って上げなければならん、と心づき、遮二無二濁流の中を駈け付けた、と云うのであった。
彼が学院の建物へ辿り着く迄の決死的な奮闘については、あとで妙子は頗る詳細な話を聞かして貰うことが出来たけれども、それもここに記す必要はあるまい。
ただ、彼も貞之助と同じように一旦鉄道線路に上り、甲南女学校の方角から駈け付けたのであったが、彼の方が貞之助より一二時間早かったために、何とか水を乗っ切ることが可能であったらしい。