現に妙子は、旦那さんや御寮人様が心配しておいでなさるでしょうから、早くお宅へお帰りにならなければいけますまい、僕がお送りして行きますと、板倉にも促され、自分でもそう心付きながら、屋根の下に直ぐつづいている地面の上へ、―――軒まで届いているのだから訳なく降りられる土砂の上へ、―――何かそこにも危難が待ち構えているように思えて、ちょっとは降りて行く勇気がなかった。
それに玉置女史も、妙子さんと板倉さんが行ってしまったら、自分たちはどうしたらよかろう、今に主人が駈け付けてくれるだろうけれども、こうしているうちに日が暮れたら、今夜はこの屋根の上で夜を明かさなければならないのだろうか、などと心細そうなことを云ったりするので、弘少年や兼やまでが、まあもう少しいてくれるようにと、頻りに板倉にせがんでいるところへ、貞之助が現れたと云う訳であった。
しかし貞之助も、屋根の上へ上って行って一と息つき、疲れ切った体を投げ出すと、当分は起き上る気力もなかった。