田中へ来ると、近い所だから僕の家で一と休みなすっていらっしゃいませんか、僕も実は自分の家がどうなっているか心配なのですと、板倉が云うので、貞之助は帰りを急いでもいたけれども、妙子がそんな風であるから、彼女を休息させるために板倉方で又一時間程くつろがして貰った。
独身の板倉は妹と二人で暮してい、二階を撮影室その他の仕事場、階下を住宅に当てているのであったが、行って見ると、彼の家も床上一尺ぐらいまで浸水していて、相当の被害はあるらしかった。
貞之助たちは二階の撮影室に請ぜられて、泥水の中から引き上げて来たサイダの接待に与ったりしたが、妙子はその間に泥と雨水の滲み透ったヴォイルの服を脱いで体を拭き、板倉の注意で、彼の妹の銘仙の単衣を借りて着た。