それで啓坊は、そしたら僕は真っ直ぐに大阪へ帰る、蘆屋の方へは、もう一度寄らなければ悪いのだけれども、様子を聞いて安心したからお寄りしないで帰ったと云うことを、明日の朝でも君が行って伝えて欲しい、それにこいさんも今朝はどうしておられるか、怪我はされなかったとしても風邪でも引いておられはしないか、僕の代りにお見舞をして来るようにと云われましたので伺いました、と、そう云う口上なのであった。
妙子は今朝はもう元気になっていて、幸子と一緒に応接間へ出て来て改めて昨日の礼を云うやら、あの危かった一二時間のことを回想して語り合うやらした。
それにしても、あの屋根の上へ逃れてからでも二時間ぐらいは夏服一枚で土砂降りの雨を浴びていた訳であるのに、風邪も引かないでしまったと云うのは、自分でも不思議のようであったが、ああ云う時には気が張り詰めてはるのんで、却ってどうもないんですな、と、板倉はそんな話をして、直きに帰った。