稽古は熱心で、要所々々の心持を丁寧に教えたが、「汐汲」の、「君にや誰かつげの櫛、さし来る汐を汲もうよ汲み分けて」のところなどやかましく云って、「月は一つ影は二つ」で桶の中に月のある思いをせよと云ったこと。
「鉄輪」の「今更さこそ悔しかるらめ、さて懲りや思い知れ」と金槌で釘を打ち付ける様をする時は、腰を折って執心する眼に注意するようにと教えたこと。
万事に旧弊で退嬰的な人ではあったが、近来上方舞が時勢に取り残されて行くのを見ては流石にじっとしていられず、機会があれば東京へ打って出ようと云う考が動いていたこと。