「時間がキチキチや云うて、時計ばかり見てはって、気が気やなかったけど、―――」
あの日、雪子と悦子とが大急ぎで突堤へ駈け付けると、シュトルツ父子はもうさっきから甲板に出て待ち焦れていたところであった。
雪子が出帆の時間を尋ねると、夜の七時と云うことだったので、それならまだ四時間足らずあるから、ニュウグランドのお茶にでもと思ったけれども、お茶には今から早過ぎるので、いっそ東京まで来ないであろうか、電車の往復が一時間と見て、三時間ほど余裕がある訳だから、自動車で一と廻りすれば丸の内辺を見物することぐらいは出来る、と、そう提議した。